大合議判決の紹介 (2014.05.29)

大合議判決の紹介

三星VSアップルの大合議判決の紹介です。
なお、来年の試験範囲に含まれますので、(たぶん出題されないでしょうが)要旨ぐらいは目を通しましょう。

簡単にまとめると、以下の通りです。
[損害賠償について(平成25年(ネ)第10043号)]
必須宣言特許(FRAND宣言された必須特許)に基づく損害賠償請求について、
①FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求は、特段の事情のない限り許されない。
②FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内での損害賠償請求は、特段の事情のない限り制限されない。
その理由は、以下の通りです。
①必須宣言特許に基づく損害賠償請求において、FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求は、標準規格に準拠しようとする者(準拠した製品を製造・販売しようとする者)の信頼を害すると共に、特許発明に対する過度の保護となり、特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き、特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがある。
②一方、必須宣言特許に基づく損害賠償請求であっても、FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内での損害賠償請求を制限することは、発明への意欲を削ぎ、技術の標準化の促進を阻害する弊害を招き、同様に特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがある。また、標準規格に準拠しようとする者は、FRAND条件でのライセンス料相当額の支払は当然に予定しているから、その範囲内で請求する限りにおいては標準規格に準拠しようとする者の予測に反しない。

[差し止め請求について(平成25年(ラ)第10007号、平成25年(ラ)第10008号)]
必須宣言特許に基づく差止請求権の行使について、
必須宣言特許に基づく差止請求権の行使を無限定に許すことは、標準規格に準拠しようとする者の信頼を害すると共に、特許発明に対する過度の保護となり、特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き、特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがある。
よって、①特許権者がFRAND宣言をしており、且つ②被疑侵害者がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有することの主張立証に成功した場合には、権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されない。
ただし、標準規格に準拠しようとする者がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない場合には、差止請求権の行使が許される。


判決・決定の要旨
平成25年(ネ)第10043号
平成25年(ラ)第10007号
平成25年(ラ)第10008号


平成25年(ネ)第10043号:平成26年5月16日判決言渡
債務不存在確認請求控訴事件
(原審・東京地裁平成23年(ワ)第38969号事件)

被疑侵害者であるアップルが、自社の各製品(製品1「iPhone 3GS」、製品2「iPhone 4」、製品3「iPad Wi-Fi+3Gモデル」、製品4「iPad 2 Wi-Fi+3Gモデル」)の生産等の行為について、特許権者である三星が保有する特許第4642898号の侵害行為に当たらない等と主張して、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた事案である。

争点1:各製品が特許発明の技術的範囲に属するか?
裁判所の判断:製品1及び3は特許発明の技術的範囲に属しないが、製品2及び4は技術的範囲に属する。

争点2:間接侵害(特101条4,5号が成立するか?
裁判所の判断:争点1と共通であるから、間接侵害の成否は判断しない。

争点3:無効理由が存在することによって、特許権の権利行使が制限されるか?
裁判所の判断:特許に無効理由がなく、その権利行使が制限されるものではない。

争点4:特許権が消尽しているか?
裁判所の判断:以下の理由により、特許権の行使は制限されないと解される。
①三星とインテル社間の変更ライセンス契約は、平成21年6月30日に契約期間満了により終了している。
②仮に終了していないとしても、製品2及び4に実装されているベースバンドチップは、当該契約の対象になるものではないから、特許権が消尽した旨の主張は失当である。
③仮にライセンス契約が終了しておらず且つベースバンドチップがその対象になると仮定したとしても、ベースバンドチップはIMC社によって製造されているのであるから、特許権の行使は制限されない。
④仮にライセンス契約が存続しており且つ(IMC社によって製造された)ベースバンドチップがその対象となると仮定しても、特許権の行使が制限されるものではない。まず、特許権者が「第三者が生産等すれば特101条1号に該当する製品」を用いて特許製品の生産等が行われることを黙示的に承諾している場合には、特許権の効力は当該製品を用いた特許製品の生産等には及ばない(BBS最高裁判決)。そして、その後の第三者による当該製品を用いた特許製品の生産等を承諾する権限が通常実施権者に付与されていた場合には、黙示的承諾の判断は、(特許権者だけでなく)通常実施権者についても検討することが必要となる。この点、三星とインテル社間の変更ライセンス契約を総合考慮するならば、三星が黙示的に承諾していたと認めることはできない。さらに、インテル社が黙示的承諾の権限を有していたとは認められず、且つ三星がインテル社に黙示的に承諾しているとも認められない。よって、特許権の行使は制限されないと解される。

争点5:FRAND宣言に基づいて特許権のライセンス契約が成立したか?
裁判所の判断:FRAND宣言によって三星とアップルとの間にライセンス契約は成立していない。
まず、FRAND宣言に基づく特許権のライセンス契約の成否は、その法律関係の性質が法律行為の成立及び効力に関する問題であるから、通則法7条によってその準拠法が定められると解する。また、ETSIのIPRポリシーには「このポリシーは、フランス法に準拠する。」との規定があることからすると、「当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法」(通則法7条)はフランス法で
あると解される。
そして、フランス法においては、ライセンス契約が成立するためには、少なくともライセンス契約の申込みと承諾が必要とされるところ、FRAND宣言については、フランス法上、ライセンス契約の申込みであると解することはできない。よって、FRAND宣言によってライセンス契約が成立したとの主張は理由がない。

争点6:特許権に基づく損害賠償請求権の行使が権利濫用に当たるか?
裁判所の判断:三星による、製品2及び4についての特許権に基づく損害賠償請求権の行使は、FRAND条件でのライセンス料相当額を超える部分では権利の濫用に当たる。しかし、FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内では権利の濫用に当たるものではないと判断する。
まず、特許権侵害に基づく損害賠償請求権は、その法律関係の性質が不法行為であると解されるから、通則法17条によってその準拠法が定められ。本件における「加害行為の結果が発生した地の法」(通則法17条)は、製品2及び4の輸入、販売が行われた地が日本国内であること、我が国の特許法の保護を受ける特許権の侵害に係る損害が問題とされていることからすると、日本の法律と解すべきである。

①FRAND宣言された必須特許(「必須宣言特許」)に基づく損害賠償請求においては、FRAND条件によるライセンス料相当額を超える請求を許すことは、当該規格に準拠しようとする者の信頼を損なう(製造・販売しようとする者は、特許権者とのしかるべき交渉の結果、将来、FRAND条件によるライセンスを受けられるであろうと信頼するが、その信頼は保護に値する)。また、特許発明を過度に保護することとなり、特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き、特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあり合理性を欠く。
②一方、必須宣言特許に基づく損害賠償請求であっても、FRAND条件によるライセンス料相当額の範囲内にある限りにおいては、その行使を制限することは、発明への意欲を削ぎ、技術の標準化の促進を阻害する弊害を招き、同様に特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあるから、合理性を欠く。また、標準規格に準拠した製品を製造・販売しようとする者は、FR
AND条件でのライセンス料相当額の支払は当然に予定していたと考えられるから、特許権者が、FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内で損害賠償金の支払を請求する限りにおいては、製造・販売しようとする者の予測に反しない。
③FRAND宣言の目的、趣旨に照らし、同宣言をした特許権者は、FRAND条件によるライセンス契約を締結する意思のある者に対しては、差止請求権を行使することができないという制約を受ける。
④FRAND宣言をした者については、自らの意思で取消不能なライセンスをFRAND条件で許諾する用意がある旨を宣言しているのであるから、FRAND条件でのライセンス料相当額を超えた損害賠償請求権を許容する必要性は高くない。
⑤FRAND宣言をした特許権者が、当該特許権に基づいて、FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求をする場合、そのような請求を受けた相手方は、特許権者がFRAND宣言をした事実を主張、立証をすれば、ライセンス料相当額を超える請求を拒むことができる。
⑥他方、特許権者は、相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない等の特段の事情が存することについて主張、立証をすれば、FRAND条件でのライセンス料を超える損害賠償請求部分についても許容される。ただし、FRAND宣言に至る過程やライセンス交渉過程等で現れた諸般の事情を総合した結果、当該損害賠償請求権が発明の公開に対する対価として重要な意味を有することを考慮してもなお、ライセンス料相当額の範囲内の損害賠償請求を許すことが著しく不公正であると認められるなど特段の事情が存することについて、相手方から主張立証がされた場合には、権利濫用としてかかる請求が制限されることは妨げられない。
⑦三星がFRAND宣言をしていることに照らせば、少なくとも我が国民法上の信義則に基づき、アップルとの間でFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けた交渉を誠実に行うべき義務を負担する。
⑧三星が他社との間のライセンス契約の条件を開示しなかったことは、直ちに不当と非難することはできず、三星がFRAND条件で
のライセンス料相当額の範囲内で損害賠償請求をしても著しく不公正ではない。

争点7:損害額
裁判所の判断:以下の算定方法により、損害額を995万5854円とする。
①製品の売上高合計のうち「規格に準拠していること」が売り上げに貢献した部分の割合を算定する。
②「規格に準拠していること」が貢献した部分のうち、特許が貢献した部分の割合を算定する(規格の全必須特許に対するライセンス料の合計(累積ロイヤリティ)が一定の割合を超えない計算方法を採用する※1)。
※1.当事者が累積ロイヤリティ5%を前提として主張をしており且つUMTS規格の必須特許を保有する者の間では5%以内を支持する見解が多くあることから、累積ロイヤリティを5%とし、規格に必須となる特許の個数割りによるものとした。


平成25年(ラ)第10007号:平成26年5月16日判決言渡
特許権仮処分命令申立却下決定に対する抗告申立事件
(原審・東京地裁平成23年(ヨ)第22027号事件)
平成25年(ラ)第10008号:平成26年5月16日判決言渡
特許権仮処分命令申立却下決定に対する抗告申立事件
(原審・東京地裁平成23年(ヨ)第22098号事件)

平成25年(ラ)第10007号は、特許権者である三星(債権者)が、被疑侵害者であるアップル(債務者)の製品1「iPhone 4」、製品2「iPad 2 Wi-Fi+3Gモデル」の生産等について、三星が保有する特許第4642898号の侵害行為に当たると主張して、特許権に基づく差止請求権を被保全権利として、各製品の生産等の差止め及び執行官保管を求めた仮処分申立事件である。

また、平成25年(ラ)第10008号は、特許権者である三星(債権者)が、被疑侵害者であるアップル(債務者)の製品「iPhone 4S」の生産等について、三星が保有する特許第4642898号の侵害行為に当たると主張して、特許権に基づく差止請求権を被保全権利として、各製品の生産等の差止め及び執行官保管を求めた仮処分申立事件である。

争点1:各製品が特許発明の技術的範囲に属するか?
裁判所の判断:各製品は、特許発明の技術的範囲に属すると判断する。

争点2:権利濫用に当たるか?
裁判所の判断:三星による特許権に基づく差止請求権の行使は、以下の理由により権利の濫用に当たり許されないと判断する。
①特許権に基づく差止請求の準拠法は、当該特許権が登録された国の法律であると解される(最判平成14年9月26日・民集56巻7号1551頁)から、本件には、日本法が適用される。
②FRAND宣言された必須特許に基づく差止請求権の行使を無限定に許すことは、規格に準拠しようとする者の信頼を害するとともに特許発明に対する過度の保護となり、特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き、特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあり合理性を欠く。
③他面において、規格に準拠した製品を製造・販売しようとする者が、FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない場合には、かかる者に対する差止めは許される。
④FRAND宣言された必須特許に基づく差止請求権の行使は、特許権者がFRAND宣言をしており、且つ被疑侵害者がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有することの主張立証に成功した場合には、権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されないと解される。
⑤アップルは、FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者であると認められるから、三星による差止請求権の行使は、権利の濫用(民法1条3項)に該当し、許されない。


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